■ 二酸化炭素(炭酸)成分の働き
もう一つの違いは、温泉に含まれている含有成分(例えば二酸化炭素や硫化水素)の作用です。これらの成分は、皮膚を通して、体内に入り、血管を拡張する作用のあることがわかっています。血管が拡張することで、心臓に負担をかけることなく、体内の血流が増し、温熱効果が高まります。
妙見の温泉は「体の芯まで温まる」というのはこういう状態のことをいうのでしょうか。
二酸化炭素が1000mg以上含まれる温泉を療養泉基準では二酸化炭素泉と呼びますが、ヨーロッパでは炭酸泉のことを「心臓泉」と呼んでローマ帝国の時代から重宝しています。ドイツのバート・ナウハイムが有名です。九州では、大分県直入町にある長湯温泉やその近くの白水鉱泉が良く知られています。妙見温泉には400〜700mg含まれています。二酸化炭素の効果は十分期待できる濃度です。
『白水鉱泉』大分県大分郡庄内町大字阿蘇野2278
(車で、庄内町湯平温泉より20分、やまなみハイウェイ長者原から20分)
問い合せTEL:0975-97-3267
これまでみてきたように、温泉に含まれる成分が大きく作用するところが、家庭での入浴と温泉との違いになります。妙見温泉では、温泉水に含まれている二酸化炭素が有効な働きをしています。鹿児島にはこの血管拡張効果を高める変わった入浴方法の温泉があります。指宿の「砂蒸し温泉」です。寝て入ることで血流がスムーズになることと、温熱、砂の圧力という三つの作用の相乗効果で、温熱効果を増幅させることが知られています。
ところで、このような温泉特有の効果、サランラップ効果や二酸化炭素による効果は、いまでは家庭でも実現することができます。人工入浴剤といわれるものがそうです。バスクリンをはじめ、温泉地の地名がついた入浴剤には、塩類が含まれ、サランラップ効果が期待できます。また、炭酸ガスを発生させる入浴剤として、炭酸ナトリウム塩とコハク酸をつかった花王のバブのようなものもあります。ガスヒーターを直接お湯に触れさせることで、二酸化炭素をお湯に溶かし込ませる装置も開発され、販売されています。都会の銭湯で採用され、好評を得ているようです。
◆やしろ湯
http://www.joho-kyoto.or.jp/~furoya/
京都にあるやしろ湯の紹介。炭酸泉効用や、遠赤外線の効用などの解説も掲載。
このように温熱効果は温泉地に出かけなくても、手軽に実現可能になってきていますが、温泉地の役割はなくなるものではありません。膨大な熱エネルギーと大量の塩類の供給は人工的にはたいへんなコストです。自然の恵みの大きさ、豊かさに比べることはできません。
また、現代人の病・ストレスから逃れる役割も温泉地に求められています。豊かな自然環境にあることの多い温泉地の大きな役割に転地効果と呼ばれるものがあります。温泉の効果と共に、温泉地の気候や自然環境が総合的に心身にプラスの作用をするのは、温泉地ならではのことです。この温泉地効果をわれわれは期待しているのです。
この他にも、温泉含有成分による効果は数多くあります。
妙見温泉は炭酸水素塩泉といわれる温泉ですが、炭酸ナトリウムを多く含んでいます。これは重曹とよばれるもので、皮膚を清潔にする(皮膚の脂肪を乳化させ、洗い流す)作用があり、「美人の湯」とも呼ばれています。飲用すれば、胃酸を中和し、肝臓などにもよい。このような重曹泉はヨーロッパでは「肝臓の湯」とよばれ、フランスのビシー、チェコのカルロヴィ・ヴァリが有名です。
もうひとつ、妙見温泉に特有な点を上げれば、鉄分を含んでいることです。鉄は血液を造る上で欠かせないものですが、いろいろな理由で鉄分の足らない人(鉄欠乏性貧血)には、飲用することで鉄分を補給することが出来ます。
このように温泉にはいろいろな効能がありますが、個人差や症状によって効果は一様ではないようです。療養あるいは治療目的で、温泉を利用する場合には、温泉療法医と呼ばれる専門の医師に相談をして、指導を仰ぐことが大切です。例えば、飲泉についていえば「温泉は老化する」ことを忘れてはなりません。成分は酸化して沈殿物を生じます。したがって飲泉は湧出直後のものを用いることが大切です。
温泉入浴によって「湯あたり」の症状を起こすことがあります。夏目漱石の「修善寺の大患」の話もあるように、用い方によって温泉が悪い結果をもたらす場合もあります。温泉地に温泉療養の指導者が必要なわけです。
温泉療法の本質的な考え方に「温泉地は温泉を含めて一種の人体に対する刺激で、生体にある自然治癒能力を増進させる役割がある。」というのがあります。わかったようではありますが、大変あいまいなところです。が、温泉に行ってゆったりと生きかえったようだというのは、このようなことを表現しているのかもしれません。こういうこともふくめて科学のメスが入り、温泉地の正しい利用が私たちの健康増進に役立つことが期待されます。
最後に、温泉の効能について、やさしく書かれている本をご紹介します。
「温泉はなぜ体によいか」―万病に効くひみつをさぐる―
植田 理彦著 講談社 ブルーバックス B-863
「入浴・温泉療養マニュアル」
日本温泉気候物理医学会から出されています。上記のHPに申し込み先があります。
「温泉の医学」
飯島 裕一 著 講談社現代新書 講談社 (1998-10-20出版)
日本人が古来親しんできた湯治の「癒しの力」とは何か。
温泉療法の第一線を全国に訪ねる最新医療ルポ。
正しい温泉についての知識を持って、楽しいSPA LIFEを過ごしてくださることを願わずにいられません。